練習問題③長短どちらも
問1:一段落(200~300文字)の語りを、十五字前後の文を並べて執筆すること。不完全な断片文は使用不可。各文には主語(主部)と述語(述部)が必須。
(『文体の舵をとれ』アーシュラ・K・ル=グウィン p73より引用)
この時空のトレリドです。
部屋にはエディスだけだった。僕は確かに話し声を聞いたのに。妹は「妖精と話してたの」と笑った。僕は「そうなんだ」と信じられなかった。当然、妖精族はツイステッドワンダーランドのあちこちにいる。エースさんは妖精の女王に手品を見せたことがあるらしい。僕もその話を聞いたことがある。それでも鈴の音は僕の耳には聞こえなかった。妖精たちは僕に姿を見せてはくれなかった。鈴の声の妖精たちは人間の常識の外側の存在だ。そうした存在に、僕は馴染むことができなかった。僕が妖精たちを信じていないから。妖精たちもきっと僕を信じてくれない。でも僕は変わりたいと思っていた。僕は「そうだろうね」と言いたかった。「いつか僕にも妖精の鈴の声が聞こえるかな」そう聞くと茨の谷から来た人は憮然として言った。「あれはお前が思うほど素晴らしいものではないが……」
追加問題
問1:最初の課題で、(中略)口語調で書いていたなら、ちょっと手をゆるめて、もっと作者として距離を置いた書き方でやってみよう。
(『文体の舵をとれ』アーシュラ・K・ル=グウィン p75より引用)
部屋には妹一人だけだった。兄は確と話し声を聴いていたのに。妹は「妖精と話してたの」と笑った。兄は信じることができなかった。妖精族はツイステッドワンダーランド中に存在する。両親の友人が、妖精の女王に手品を見せた話も聞いていた。それでも彼の耳に鈴の音は聞こえなかった。妖精たちは彼には姿を見せなかった。彼は埒外の妖精たちに恐れを抱いていた。妖精たちにもそれを気取られているのだ。彼はそう信じてしまっていた。けれど彼は変わりたかった。彼は妹を信じてやれる兄になりたかった。
彼はいつか妖精の鈴の声が聞こえるよう願っている。それを聞いた妖精王は憮然として言った。「あれはお前が思うほど素晴らしいものではないが……」と。
追加問題
両問共通:二種類の文の長さでそれぞれ別の物語を綴ったのなら、今度は同じ物語を両方で綴って、物語がどうなるのか確かめてみよう。
(『文体の舵をとれ』アーシュラ・K・ル=グウィン p75より引用)
あの時二階の部屋にはエディスだけだったのに、僕が部屋に入るまであの子はずっと誰かと話していて、内容はいつもあの子が夢中になってるもの——美味しい食べ物のこと、美味しくない食べ物のこと、食べ方のこだわりのこと——だと思うんだけど、後で聞いてみたら「妖精さんたちと話してたの」なんて言うものだから、僕は思わず「おかしなこと言わないで」って言ってしまって……別に僕が何か言ってもあの子は今更ショックを受けたりしないかもしれないけど、ただ「嘘じゃないよ」って言うだけで……嘘つき呼ばわりしてしまった、どうして「そうなんだ」って言ってあげられなかったんだろう、僕にも妖精の声が聞こえてたらよかったのに——いや、あの、もちろんこの世界、ツイステッドワンダーランド中に妖精がたくさんいるっていうのはわかっているんだけど……あなたが来られた茨の谷にも、それだけじゃなくて、この薔薇の王国にも、きっとどこにでも……中にはあなたみたいに僕らと同じように生活をされている方もいるわけで……でも多分エディスが会話していた鈴の声のは多分もっとこう、僕の常識の外側にいる妖精たちで……すみません、僕はそういう妖精になんだか苦手意識があって……よくわからなくて、怖くて、よくわからないから怖くて……きっと僕があの妖精たちを信じていないから、あの妖精たちも僕を信じてくれないんですよね、でも僕はできることなら変わりたいんです、妹に「そうだろうね」って言ってあげられるように、妹を信じられるお兄ちゃんに……いつか僕にも妖精の鈴の声が聞こえるのかな……えっ、そんなに素晴らしい存在じゃないって、どういうことですか、マレウス・ドラコニアさん、僕に妖精たちのことを教えてくれませんか?