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文体の舵をとれ『文体の舵をとれ』練習問題p73問二&p75追加問題(トレリド子育て時空OCによる語り)

練習問題③長短どちらも
問2:半〜一ページの語りを、700文字に達するまで一文で執筆すること。
(『文体の舵をとれ』アーシュラ・K・ル=グウィン p73より引用)

この時空のトレリドです。


  その日のランチはお父様お得意のサンドイッチで、きゅうりのと卵のとベーコンのとが二つずつ、かわいいサンドイッチ型のランチボックスにぎゅっと詰まっているのを見たときからなんだかいいことが起こりそうな予感があって、いつもと少し違うメンバーで食べてたらお母さんが赤龍の国出身の子のお弁当が見られて面白かったし、卵サンド一つとダンプリング一つを交換してもらえて、胡椒と……ハッカクかなあ? が効いててすっごく美味しくて、今度絶対みんなで作ろうね——それでお腹いっぱいでフワフワした気持ちで午後の授業は眠たかったんだけど天気がよかったからせいろでぽかぽかする夢を見られて、あっごめんなさい、寝ちゃわないように来週からはもっと気をつけるよ、それで授業の後はケーくんが車でお迎えに来てくれたのも嬉しかったし、その助手席にお姉ちゃんが座っていて、ああ、そっか今日から春の連休なんだ!っていうのがわかって、いつもならそのままおうちに帰るのにケーくんはこっそりプレイパークに寄ってくれて——あっこれお父様には秘密なんだったごめん、クラスの子が言ってたフォトブースが誰も並んでないのもラッキーで、でもケーくんが「こんなおじさんと撮ることないでしょ、二人で撮りなよ」って言うのがわたし本当にわからなくて、お姉ちゃんと二人でフォトブースに引っ張り込んで最高の写真を撮って、どれも本当に本当に嬉しかったんだけどそれにしてもなんで今日はこんなにゆっくり帰るんだろうと思ったらおうちがパーティー会場になってるんだもん——そっか、プレイパークの人がバルーンアートの王冠をくれたのなんでかなって思ってたけどそうなんだ、嬉しいこと楽しいことばっかりの今日はわたしの誕生日なんだ!

両問共通:二種類の文の長さでそれぞれ別の物語を綴ったのなら、今度は同じ物語を両方で綴って、物語がどうなるのか確かめてみよう。
(『文体の舵をとれ』アーシュラ・K・ル=グウィン p75より引用)


 ランチはお父様のサンドイッチだった。ランチボックスも私のお気に入りだった。フィリングも大好きなもの3つだった。それを見てから、いい予感があった。昼食のテーブルにはいつもと違う子がいた。赤龍の国のお弁当が見られた。交換してもらったダンプリングが美味しかった!午後は暖かい陽の中で暖かい夢を見た。授業中だったのはダメなんだけれど……。放課後、ケーくんが車で迎えに来てくれた。車には”塔”から帰ってきたお姉ちゃんもいた。プレイパークに寄り道して3人最高の写真を撮った。ゆっくり帰ると、おうちがパーティー会場になってた。今日は、わたしの誕生日!嬉しいことと楽しいことがいっぱいの一日!

『文体の舵をとれ』練習問題p73問一&p75追加問題(トレリド子育て時空OCによる語り)

練習問題③長短どちらも
問1:一段落(200~300文字)の語りを、十五字前後の文を並べて執筆すること。不完全な断片文は使用不可。各文には主語(主部)と述語(述部)が必須。
(『文体の舵をとれ』アーシュラ・K・ル=グウィン p73より引用)

この時空のトレリドです。


部屋にはエディスだけだった。僕は確かに話し声を聞いたのに。妹は「妖精と話してたの」と笑った。僕は「そうなんだ」と信じられなかった。当然、妖精族はツイステッドワンダーランドのあちこちにいる。エースさんは妖精の女王に手品を見せたことがあるらしい。僕もその話を聞いたことがある。それでも鈴の音は僕の耳には聞こえなかった。妖精たちは僕に姿を見せてはくれなかった。鈴の声の妖精たちは人間の常識の外側の存在だ。そうした存在に、僕は馴染むことができなかった。僕が妖精たちを信じていないから。妖精たちもきっと僕を信じてくれない。でも僕は変わりたいと思っていた。僕は「そうだろうね」と言いたかった。「いつか僕にも妖精の鈴の声が聞こえるかな」そう聞くと茨の谷から来た人は憮然として言った。「あれはお前が思うほど素晴らしいものではないが……」


追加問題
問1:最初の課題で、(中略)口語調で書いていたなら、ちょっと手をゆるめて、もっと作者として距離を置いた書き方でやってみよう。
(『文体の舵をとれ』アーシュラ・K・ル=グウィン p75より引用)


部屋には妹一人だけだった。兄は確と話し声を聴いていたのに。妹は「妖精と話してたの」と笑った。兄は信じることができなかった。妖精族はツイステッドワンダーランド中に存在する。両親の友人が、妖精の女王に手品を見せた話も聞いていた。それでも彼の耳に鈴の音は聞こえなかった。妖精たちは彼には姿を見せなかった。彼は埒外の妖精たちに恐れを抱いていた。妖精たちにもそれを気取られているのだ。彼はそう信じてしまっていた。けれど彼は変わりたかった。彼は妹を信じてやれる兄になりたかった。
彼はいつか妖精の鈴の声が聞こえるよう願っている。それを聞いた妖精王は憮然として言った。「あれはお前が思うほど素晴らしいものではないが……」と。


追加問題
両問共通:二種類の文の長さでそれぞれ別の物語を綴ったのなら、今度は同じ物語を両方で綴って、物語がどうなるのか確かめてみよう。
(『文体の舵をとれ』アーシュラ・K・ル=グウィン p75より引用)


あの時二階の部屋にはエディスだけだったのに、僕が部屋に入るまであの子はずっと誰かと話していて、内容はいつもあの子が夢中になってるもの——美味しい食べ物のこと、美味しくない食べ物のこと、食べ方のこだわりのこと——だと思うんだけど、後で聞いてみたら「妖精さんたちと話してたの」なんて言うものだから、僕は思わず「おかしなこと言わないで」って言ってしまって……別に僕が何か言ってもあの子は今更ショックを受けたりしないかもしれないけど、ただ「嘘じゃないよ」って言うだけで……嘘つき呼ばわりしてしまった、どうして「そうなんだ」って言ってあげられなかったんだろう、僕にも妖精の声が聞こえてたらよかったのに——いや、あの、もちろんこの世界、ツイステッドワンダーランド中に妖精がたくさんいるっていうのはわかっているんだけど……あなたが来られた茨の谷にも、それだけじゃなくて、この薔薇の王国にも、きっとどこにでも……中にはあなたみたいに僕らと同じように生活をされている方もいるわけで……でも多分エディスが会話していた鈴の声のは多分もっとこう、僕の常識の外側にいる妖精たちで……すみません、僕はそういう妖精になんだか苦手意識があって……よくわからなくて、怖くて、よくわからないから怖くて……きっと僕があの妖精たちを信じていないから、あの妖精たちも僕を信じてくれないんですよね、でも僕はできることなら変わりたいんです、妹に「そうだろうね」って言ってあげられるように、妹を信じられるお兄ちゃんに……いつか僕にも妖精の鈴の声が聞こえるのかな……えっ、そんなに素晴らしい存在じゃないって、どういうことですか、マレウス・ドラコニアさん、僕に妖精たちのことを教えてくれませんか?

『文体の舵をとれ』練習問題p49(トレリド)

練習問題②ジョゼ・サラマーゴのつもりで

一段落~一ページ(300~700文字)で、句読点のない語りを執筆すること(段落などほかの区切りも使用禁止)。

『文体の舵をとれ』アーシュラ・K・ル=グウィン p49

もう二度と句読点を雑に扱わないので許してください、と思いました。


 その時のローズハートの顔ときたらまったく教わってない芸をさせられた時または投げられていないのに何かを放った腕の先を見つめてしまった時の犬のようで本当に見物だった!それ以上に面白かったのは偶然居合わせたのかどこからかすっ飛んで来たのかいつの間にかローズハートの傍にいたクローバーがさもおかしくありませんみたいな顔で「悪い悪い俺が借りたままだった」なんて取り澄まして言ったことよ!動画を撮っておけばよかったあなたが見られなくて本当に残念だってこんなことはもう二度と無いでしょうしあなたがローズハートやクローバーに会うこともないでしょうからね!私ばかり喋りすぎかしらでもだってこんなこと同僚は勿論生徒にだって話せやしないもの!もしも教師の仕事が安全な範囲で失敗させたり恥をかかせたりすることだというのならきっとクローバーは絶対教師にはなれっこないでしょうよ!

『文体の舵をとれ』練習問題p33(イポウァレ)

練習問題①文はうきうきと

問2:一段落くらいで、動きのある出来事をひとつ、もしくは強烈な感情を抱いている人物を一人描写してみよう。文章のリズムや流れで、自分が書いているもののリアリティを演出して体現させてみること。

『文体の舵をとれ』アーシュラ・K・ル=グウィン p33

 紹介するよ、新しい仲間の——とソロモンが告げなくても、広間に立っている姿を一目見た時からその名はイポスの脳の中で響いていた。ウァレフォル。ウァレフォル。ウァレフォル! 細い突剣のしなりと、重い曲剣の確固さとがせめぎ合った時の耳障りな金属音。命を散らしていく傭兵と盗賊たちの野太い断末魔。目の前に立ちはだかる相手がまだ生きている証し、吸って吐く息。頭が沸騰するほど血なまぐさい怒りの記憶がきりきりと響き渡る。いや、それだけではなかった。しなやかに筋肉質で背の高い金髪の女を見つけた時、イポスの中に満ちた響きは怒りや殺意だけではなかった。それは、喜びでもあった。大切に個としての名を記憶するほどの相手が、再び目の前に立っている。よくよく見れば美しい顔立ちの要、片眼は眼帯で覆われている。その意味を理解した時、剣先が彼女の顔を走った時の感触がイポスの中でゾクゾクと再生された。自分が奪ったものだと思うとより一層、本当に美しく思えた。
「よう——“はじめまして”だな」
 いつかその眼帯をめくってやりたい。そんなことを思いながら、イポスはいたって平静な声色顔色で、彼女に左手を差し出すのだった。

『文体の舵をとれ』練習問題p31(トレリド)

練習問題①文はうきうきと
問1:一段落~一ページで、声に出して読むための語り(ナラティブ)の文を書いてみよう。
(『文体の舵をとれ』アーシュラ・K・ル=グウィン p31より引用)

この時空のトレリドです。


眠れない? 一体どうしたんだ? ……怖くて眠れない? さっきお父さんがしっかり鍵をかけたのをお前はちゃあんと見てただろ? 安心しろ、怖いことなんて何もないよ。この子供部屋は世界一安全だよ。……窓から影が入ってきたって? ……確かに泥棒と違って、影や光は鍵なんて気にしないか。でも影は影だよ。何もできっこないさ。持ち主にくっついていることしかできないよ。大きな怪物に見える? 飛び回る男の子に見える? 悪い魔女に見える? 見える、見えるだけさ。そこに本当のものは何も無いよ。ほら、目を閉じるんだ。瞼の裏で本当のものをひとつひとつ思い浮かべて。夜空を流れていく雲や、通りに立った信号や、窓の外のクルミの木を、閉じた目でひとつひとつ見るんだ。

……今度は音がする? クローゼットで何かがカタカタ動いてるって? クローゼットの向こうにはケイトの部屋があるだろ。ケイトが仕事してるだけさ。(あいつめ、キーボードの音が大きいぞ)廊下をギシギシ歩く音がするって? お前たちがパパを離してくれないから、お父さんが様子を見に来ただけさ。それでもお前たちはモンスターがいるっていうのか? 絵本で読んだモンスターの話がそんなに気になるのか? モンスターたちがいるなら、きっと夢の中だよ。夢の中で街を作って、楽しく暮らしてるはずだ。モンスターはお前たちのよろこびが好きなんだ。街の灯りはお前たちの笑い声で光って、街を行く車はお前たちと一緒に走るんだ。お菓子も? ああ、お菓子もきっと作って食べてる。マロンタルトもきっとあるよ。クリームがなめらかなやつだ。早く夢の中に入ってモンスターたちと一緒に食べておいで。