6.飲酒描写→トレリド
毎週金曜のトレイの家でのディナーに酒が登場するようになって、数年の時間が経っただろうか。リドルが好むのはお気に入りのジンを微糖の炭酸で割ったものか、二人で飲むために持ち込んだ赤ワイン、もしくはトレイが魔法でリキュールを混ぜ冷やす甘いカクテルだ。ビールを嗜むのはトレイだけで、リドルはビールに対して若干の苦手意識があった。単に酒を飲めるようになってすぐ飲んだラガーが苦いばかりで口に合わなかったというだけなのだが。だからトレイがビールの缶を二つダイニングテーブルに置いた時は、わずかに眉をひそめた。
「ちょっと試しに飲んでみてくれないか? 口に合わなかったら俺がもらうよ」「……じゃあ、たまにはね」
そう承諾しつつも、グラスに注がれる曇ったはちみつ色の液体をじっと睨む。トレイは器用に程よい厚みの泡の層を作って注ぎ切った。……炭酸を飲めるようになったのだって、NRCでケイトやエースに協力してもらってやっと慣れていったのに。わかっている、炭酸はもう克服している。トニックウォーターやジンジャーエールのトールカクテルは好きなのだから。一気に飲んで、舌ではなく喉で味わうんです! といつかデュースが言っていたが、意味がわからなかった。喉に味蕾はないし、リドルは飲み物を一気に飲み干すのが得意ではない。
「今週もお疲れ様」トレイがグラスを掲げる。リドルは観念して乾杯に応じると、泡の先の液までぐっと飲み干した。
「苦……くない?」苦みが一切ないわけではない。さわやかさやフルーティーな香りが喉から鼻へ通り抜けて、苦みはそれをむしろ引き立てる役割を担っていた。「美味しい!」リドルが笑みを浮かべたのは、思わずもう一口飲んだ後だった。
「香りがいい酒が好きだろ? だから多分大丈夫だとは思ってたんだが、口に合ってよかったよ」
ビールの世界も奥が深い、最近職場の近くにものすごい数のクラフトビールを取り揃えたビアホールができて……と楽しそうに語るトレイにリドルは目を細めた。が、「ん?」とひっかかりを覚えた。
「トレイ……キミ、これを発見するまでにどれくらいそこに通っておいでだい?」
「…………」トレイが気まずそうに目を逸らす。
「そんなに強くないのだから、ボクの目の届かないところで飲み過ぎないでって言ったよね!」
「すまん、お前でも楽しめるビールがあるかもって思うと——」
別にビールを、酒を飲めなかったとて、人生で損ということはない。けれど、少しでもリドルの楽しみが増えるのなら、トレイは探求したかった。……というのは、言い訳だろうか。誰かに心配をかけないでこその、楽しみなのだから。