荷/面と点(Web拍手お礼ログ) - 1/2

メギド72/イポス×ウァレフォル

Web拍手お礼の再録です。
『荷』
お礼設定期間:2023年5月27日~2023年10月19日
『点と面』
お礼設定期間:2023年10月19日~2026年1月25日

「あれ、お頭……?」
イポスもウァレフォルもしまった、とは思ったが表情は変えなかった。アジトの買い出しに訪れた店に荷を卸していたキャラバンの一員が、ウァレフォルのかつての部下だった。
「久しいな」
「一体どうしたんで?」
「何、今属しているところの所用でな」
ウァレフォルが男と会話している間に、イポスは店主との交渉を済ませようとする。この男は、イポスとウァレフォルが殺しあったときその場にいた。ヴァイガルドで一般的な軽装の、むき出しになった腹には傷がありありと見てとれる。
息災だったかとか、今は何をしているだとか、世間話の花が散る前にこの場を去った方がいいだろう。買い出しの荷を担いで、他の用事を済ませてくるぞ、とアイコンタクトで伝えた。ウァレフォルも一瞬目線を返すと、すぐに元部下に向き直る。
「そういえばこのあたりでは最近盗賊が出るらしいが、貴様は何か知っているか?」
「まさか、俺を疑っているんですか? 俺はもうこのキャラバンの一員なんですよ、そんな真似はしません」
「キャラバンばかり皆殺しにすると聞いてな。心配なのさ」
「ははは、それには及びませんよ! 盗賊のやり口はよく知っていますし、なんたって俺はあなたに鍛えられたんですから」
去り際に、そんな会話が聞こえた。

***

そのまさかだったらしい。キャラバンに入り込んだ盗賊は、足を洗うことなくそのキャラバン全員を悪事へと引きずり込んでいた。他のキャラバンを襲えば商売敵も減る、商品も独占できると唆して。どうしても一つの町では賄えない物資があり、別の町へ向かった二人が便乗したキャラバンを、突如別の馬車が襲う。襲撃した一味を統率していた男の覆面を剥ぐと、予感していた通りそれはあの、腹に傷のある男だった。
「どうして……お頭……」
「カタギの仲間と上手くやれているのなら、その目があるところで私に自分から話しかけてくることはないだろう?」
これまで足を洗った部下に声をかけるときは、重々注意を払ってきた。向こうから声をかけてくるのは、大抵足を洗えていない――ウァレフォルとの日々に未練がある連中ばかりだ。
地に伏した男は、ちくしょう、それもこれもあんたのせいだ、とウァレフォルを詰った。
「お頭……どうして俺を連れていってくれなかったんですか?」
「……誰も連れて行くつもりはなかった」
「俺はあの時そこの奴に殺されたんです。いつ死んでもいい、あんたのために死のうと思ってたのに」
「そんな風に言う奴を、なおさら巻き込むわけにはいかない」
お優しいことだ、と男は濁った目で笑った。
「……でも、もういいんです。やっとあんたに殺されて、よかった」
「……私は貴様を殺さない。いいか、しっかりとヴィータの社会の中で裁かれろ」

「お優しいんだか、残酷なんだかな」
「半端だと思うか?」
次の町へ到着して、襲撃者たちを移送する騎士団の馬車を見送りながら、イポスは刺突剣の血くもりを拭った。
「ああ。終わらせてやった方がよかったんじゃねえか。お前ができないなら、俺がやってもよかったんだぜ」
そうぼやきながらも、元部下との最後の語らいに割って入ることはしなかった。そういう男だ。
「あいつが死ぬべきはあの時だったのか、今だったのか、この先なのか——それを私が定めることはできん」
ウァレフォルは顔を上げた。真昼の空は、嫌になるくらい澄んでいる。少しの千切れ雲が、寄る辺なく流れていた。
「貴様はどうだ? もしも部下が——」
「うちの部下にはありえん話だな」
問いかけを最後まで聞かず、被せるようイポスは即答した。しなだれかかるように命を押し付けて、捨てる部下は魔獅子の傭兵団にはいない。少なくとも、今は。そうか、羨ましいよと返して、ウァレフォルは歩き出す。無言でイポスも並んだ。今背負っているのは、買い出しの荷物だけ。それなのに不思議と、足取りは重かった。