#TreyRidWeek2026 参加作品 - 6/6

0829 Day 6: Learning『静かな呼吸』

ページをめくる音と、ペンがノートを走る音。それに、どこか遠くでひそひそ声のおしゃべりが聞こえる。内容は、わからない。隣に座っているリドルの息遣いが静かすぎて、トレイは少しだけ本から顔を上げた。リドルの目は、魔法史の本の文字を淀みなく追っている。あまりの集中具合に、酸欠を起こさないか心配になる。カリムやアズールと勉強会をすることもあるらしいし、寮生たちに教えることも多いが、本来リドルにとっての勉強とは己の脳と外部の知識を対話させて吸収していくことだ。トレイは特に今勉強で困っていることはないし、リドルの邪魔をする理由はない。自身の読んでいる本に視線を戻した。
「それってデートにカウントしていいの? 一緒にいる意味あるの?」とケイトやエースは言うが、トレイにとっては十分デートだ。リドルにとって勉強とは、もはや息をしたり、食事をしたりするのと同じになっている部分もあるが、知識を得ることが好きなのは間違いないと思う。リドルが好きなことをしている時の横顔を覗き見るのが、トレイは大好きだ。それに、リドルが隣にいるともなれば、自動的に背筋は伸びるし集中は保たれる。静かで、何も起こらないが、間違いなく二人らしい、素晴らしいデートだ。
「——トレイ。トレイ。15時45分だ」
リドルが耳元で囁く。この緊張感のある囁き声が、トレイはたまらなく好きだった。
「ああ、そろそろ帰ろうか」
本を元の場所に戻すと、図書館を後にする。16時のお茶のおやつは何にしようか。勉強の後は、うんと素敵なものがいい。