#TreyRidWeek2026 参加作品 - 4/5

0827 Day 4: Fairytale『ハリネズミと風を』

ここは妖精郷ピクシー・ホロウ。妖精たちは毎日季節を変えるための準備に大忙し。春夏秋冬それぞれを彩る草花を作り、虫や動物たちを育て、水や光や風をきらめかせる。人間の社会で例えるならば、大企業ほどの人数規模の妖精たちが、それぞれの部署でそれぞれの仕事をしているのだ。その中でトレイは、物づくりの妖精として腕を振るっていた。妖精たちの職人技を支えながら、業務の効率化のために新たな道具やシステムを創造する。人間たちの世界・メインランドへ渡ることはない裏方だが、トレイはその仕事に誇りを抱いていた。
「トレイ! キミが直してくれたから、またちゃんとハリネズミの針がまんべんなく生やせるようになったよ、ありがとう」
「それはよかった。他にも改良したいことがあれば相談してくれ」
荷車を引くネズミとともに動物の妖精たちの仕事場を訪れ、資材を受け渡す。すぐさま動物の妖精のリドルが飛んできて、トレイに笑顔を見せた。後をついてきたハリネズミ達が、トレイに対しても親しげに鼻先を寄せる。
高速飛行の妖精だったリドルが動物の妖精になって、もう十年は経つだろうか。妖精たちの時間感覚では、”まだ”というところだが。妖精が生まれながらの資質のみに基づいて仕事をしていたのも今は昔の話。妖精の粉の錬金術により、今では希望によって能力を変えることも可能になっていた。もっとも、妖精の粉は貴重な限られた資源なので、慎重な面談が行われる。稀少な高速飛行の妖精で、素晴らしい飛び手でもあったリドルが動物の妖精になりたいと言い出した時は、特に多くの面談が重ねられた。キャリアを重ねていれば統括する立場の妖精にだってなれたかもしれないのに、また0から始める決断をしたのだ。
今でも、リドルが起こす風を懐かしむ者もいる。トレイだってそうだ。だが。
「トレイ、今年のハリネズミの丸さと言ったら、素晴らしいものだよ。キミも見ていかない?」
「ああ、ぜひ見せてくれよ」
トレイにとっては、ハリネズミたちやウサギたちを慈しむリドルの笑顔ほど愛おしいものはない。あの時リドルの願いを応援してよかったと、心から思っている。荷車を引くネズミの毛並みを撫でた後、リドルは荷車の大きな車輪に触れた。人間の瓶の蓋に穴を開けたものだ。妖精たちは、自分たちで使うものは自分たちで作っている。流れ着く人間たちの落とし物・迷い物を加工することもある。それが来る場所を見てみたいと、トレイはいつだったか言っていた。
「トレイ、キミは一つのことをやり通して、みんなのために働いている。ボクは心から尊敬しているよ」
トレイの目を見つめて、リドルは言った。
「そんなキミに、贈り物をしたいんだ。今度の春、一緒にメインランドに行かないか」
「おいおい、俺は物づくりの妖精だぞ? メインランドのことは知らないし、もし足手まといになって人間に見つかりでもしたら……」
「ボクは元高速飛行の妖精だよ? どう飛べば人間に見つからないのかはまだ覚えているよ。早く飛ぶことはできないにしてもね」
リドルはトレイの手を取って、ぱたぱたと羽をはためかせた。
「キミと同じ速さで飛べるようになってよかった」
高速飛行の妖精としてのリドル、動物の妖精としてのリドル、その全ての経験と選択をもって、今リドルはトレイの手を取っている。それにふさわしい言葉が見つからなくて、トレイはリドルの手を握り返しながら、同じ速度に合わせて羽をはためかせた。