#TreyRidWeek2026 参加作品 - 5/5

0828 Day 5: Trapped『ちいさな薔薇のへや』

寮長の命令しか聞かないはずの薔薇たちだが、今日はいつにも増してご機嫌斜めらしい。「そこをお退き! お退きったら!」寮長の命令すら聞かなくなってしまった。おかげでちょっと薔薇の様子を見るだけのつもりが、薔薇の迷路の中に閉じ込められてしまった。上空からの飛行者も跳ね除け、よじ登ろうとすればトゲが鋭くなる。寮生たちにメッセージは送ったものの、誰一人として救助することができない。文字通りの八方塞がり、薔薇でできた四畳半に閉じ込められてしまっていた。
「リドル! 大丈夫か!?」
「トレイ! 危ないよ、キミも攻撃されてしまう!」
しかし薔薇たちはトレイの箒を阻まなかった。トレイはピクニックバスケットを持って薔薇の中心へと降り立つ。
「いつまで閉じ込められてるかわからないし、食料と飲み物だけでも届けようかと思ったんだが……」
「杞憂だったね、さあ帰ろう」
しかし、再度飛び上がろうとすると薔薇たちは伸び上がって行く手を阻む。
「一体何なんだい!」
「はは、遭難者が二人に増えたな」
ゆっくり助けを待とう、と言ってトレイはレジャーシートを敷いた。
「……キミ、随分用意がいいね」
「いや、これも立ちっぱなしは辛いんじゃないかと思って……」
バスケットからサンドイッチと紅茶の水筒を取り出してレジャーシートに座ると、図らずもピクニックのようになってしまった。
「妹とこうやって庭でおままごとのお茶会をしたのを思い出すよ」
「トレイ、遊んでいる場合ではないよ」
それにこんな出口のない部屋でのおままごとなんて、悪趣味だ。
「今日はもう急ぎの予定もないんだろ? たまにはゆっくり休めばいいんじゃないか」
「自分で休むのと、休ませられるのは違うよ。それに、こんな風に閉じ込められて……」
リドルは空を見上げた。唯一、天井だけが空いている。足の下には地面のかすかな凹凸を感じるのに、なぜこんなにも、あの二階の窓辺を思い出してしまうのだろう。ただ違うのは、トレイがいることだけだった。
「キミと二人きりで過ごすのは、素敵だけれどね。でもボクは……ここから出たいんだ」
「リドル……」
瞳を伏せて落ち込んだリドルの頬を、トレイはそっと撫でた。リドルが毎日落ち込む暇もないくらい目まぐるしく学んで働いて怒っていることを思えば、たまにはそういった気持を整理する時間もあった方がいいのかもしれない。だが、やっぱりトレイとしてはリドルに笑っていてほしい。閉じ込められること、自由を奪われることが、リドルにとってこんなにもトラウマになっているのなら、無理に明るく良かった探しをしていてもしょうがない。トレイは、無理を承知で薔薇たちに声をかけた。
「なあ、道を作ってくれないか」
すると薔薇たちは、ざわざわと道を開けた。花をうつむかせる様子は、詫びているというよりも、どこか後ろめたいような、詫びているような姿に見えた。それを見て、リドルは少し笑う。
「いつかキミと作る家庭も、風通しのいいものにしたいな」
「まあ少なくとも、窓とドアはちゃんとあった方がいいだろうな」
レジャーシートから立ち上がると足がしびれていて、リドルは少しよろめく。「ゆっくり行こう」とトレイはそれを支えた。きっともう薔薇が、リドルを閉じ込めることはないのだろう。