【エピローグ】
ある土曜日の午前中のことだった。
それはリドルが馬術部の当番で厩舎に入った時、トレイがキッチンでクッキーを焼いている時、ケイトがSNSで見つけたメイクを試したくて洗面室へと向かった時、エースとデュースが外泊していたオンボロ寮を出た時。“その時”は……特に何も起こらず、過ぎ去った。
クッキーの次はケーキを焼こうと段取りをつけながら、トレイは当番を終えたリドルが帰ってくるのを待っていた。
リドルは当番を終えたら、いつにもましてまっすぐに、駆け足で寮へと帰ろうと思っていた。
二人も、ケイトもエースもデュースも監督生もグリムも、未来のことは何も知らない。
けれどトレイとリドルは、なぜか、二人で行きたい未来のことを話してみたいと、思っていた。