0825 Day 2: Pajamas『お泊り会におやすみ』
魔法で空調が整えられていると言っても、九月の夜の廊下は肌寒い。リドルはガウンの合わせを深くすると、紐をしっかりと結んだ。消灯時間までの滑り込みのように慌てて就寝準備をする寮生たちが洗面室へ向かうのとすれ違う。その多くはまだ生活リズムの整っていない一年生だったが、急ぐ素振りすらしない上級生もいる。
「そこ、早く就寝準備をおし! だらしない生活は許さないよ」
「はあ、はい、寮長」
どれほど堕落しきった生活をしていたのだろう。リドルはぎりりと歯噛みすると、マジカルペンを構える。それだけで、決闘の様子を思い出した上級生たちは、身震いをして廊下を速歩きで去っていった。
「リドル、お疲れ様。あとの見回りは俺が引き継ぐから、お前はもう休んでくれ」
「トレイ……そういうわけにはいかないよ。全ての寮生がちゃんと眠るまではね」
「……じゃあ、他に何かできることはあるか? 副寮長として」
「なら……戸締りの確認と、もう使わない共用部の消灯をお願いするよ」
「ああ、わかった」
トレイと別れた後、心なしか歩く速度を速めていた。彼の至って気取らない寝間着を思い出していた。他の一年生との一週間ばかりの共同生活は、神経がすり減るばかりで何も感じなかったのに、トレイの寝間着姿には、一体何を感じているのだろう。
「そこ、まだパジャマに着替えていないのかい!?」
「すっ、すみません、急ぎます!」
かつて属していた部屋を覗き込むと、その部屋の一年生たちはリドルがいなくなって羽を伸ばせるとばかりにカードゲームに興じていた。それを怒鳴りつけると、みんな慌ててシャワールームへと寝間着を抱えて逃げていく。
ふと、その中の一人が入学初日に言ったことを思い出した。
——寮生活って、なんか子供の頃のお泊り会みたいだよな。俺、眠れるかな。
「お泊り会……か」
そんなもの、リドルは知らない。経験したことがない。でも、もしかしたら。トレイと。チェーニャと。お泊り会をしたかったのかもしれない。
「馬鹿馬鹿しい……」
長い廊下を、リドルはまた一人で歩き始めた。そこにパタパタと、室内履きの音が近寄ってくる。振り向いたらまさにトレイがいて、リドルは思わず声を上げそうになる。この寮のことはトレイの方がよく知っている。リドルが言いつけたことなど、すぐに済んでしまったのだろう。
「リドル。こっちはもう終わったよ。見回りを分担しよう」
「……じゃあ、キミには、三年生の階をお願いしようかな」
「わかった」
階段のところで別れる前に、「トレイ」とリドルは呼び止めた。
「おやすみ。これが終わったら、キミも早く寝るんだよ」
「ああ。おやすみ、リドル」
寮を取り締まるためとはいえ、寮長と副寮長が夜ふかしをしているのでは、示しがつかない。それを伝えたかっただけ。しかしそう思おうとすればするほど、リドルの耳にはトレイと言い交わした「おやすみ」が響いていた。全ての寮生が就寝したことを確認して、全ての消灯を確認して、ベッドに入るときまで、リドルはその「おやすみ」を握りしめたままでいた。
