#magnetmirrorweek26 参加作品 - 1/7

・多分に捏造を含みます。
・日本語です。

0727 Precanon(本編前)『He』

まず、顔が好みだった。トライアルで一目見て、そう思った。他の新入生がまごつく中で、自分のペースを崩さないのもいいと思った。それから、フィールドの上で彼の影が増えて、翻って、光って消えるのが、目に焼き付いて離れなくなった。
バーズの新入生歓迎会で顔を合わせた時、さりげなく近づいてバーズを選んだ理由を尋ねると「消去法だ」と言ったので、へえ、と思った。
「ローゼズはプレイスタイルが合わない。シャドウズは陰気で気が滅入る。ドラゴンズは偉ぶってて気に食わない。バーズしかないだろ」
「わかる! 俺たち、気が合いそうだね」
「俺はそうは思わないけどな」
「そんなことないってえ」
自分に似ているやつなんかいないと思っている傲慢な返事がたまらなくて、俺はその後も彼に絡み続けた。だって四チーム全てからオファーが来たやつなんてそんなに多くない。その代のバーズでは、俺とカリスタと彼だけ。絶対に俺のことを認めさせてやると思った。だから俺の方が先にベンチに入った時、苦虫を嚙み潰したような顔をするのを見て、最高に気持ちがよかった。だから朝早くからピッチに行って練習しているのを見た時だって、本来同じくらいの愉快さを感じていいはずだと思った。なのにその朝俺の胸にあったのは、焦げ付くような痛みだった。ただただ傲慢なスターだと思っていた彼に、そんなひたむきな面があったことへの、尊敬。そんな彼が、まだ俺を見てくれないという事実。俺はこんなにも人を好きになって苦しくなるんだと、その時初めて知ったんだ。
だからって、素直に彼のとこに駆け寄って「俺も一緒に練習していいかな?」なんて言える俺じゃない。むしろ、どうして俺をこんなに苦しめるんだと、身勝手な憎しみすら湧いた。心底人を好きになることと人を憎むことは、同時にできるんだ。俺はぐちゃぐちゃな心を抱えて、ますます彼に絡むのをやめなかった。
「オドワードって笑ったり楽しんだりするの? あるなら今度俺にも教えてよ。週末一緒にメストラスに降りて遊ぼうよ」
「どうせカリスタも来るんだろ?」
「どういうこと?」
「二人でならいいって言ってる」
ずっと後で「あの時はお前らがいつもべったりなのが目障りだったから嫌味を言っただけ」なんて言ってたけど、その時の俺は「二人で」に舞い上がってちっとも嫌味には気がつかなかった。「じゃあ週末駅で、絶対来いよ」と前のめりに待ち合わせを押し付けるので精いっぱいだった。それをきっかけに、何度か遊びに行って、一緒にいることが増えた。例の焦げ付くような痛みは楽しさと一緒にずっとあって、いつまでそれを抱えていればいいのだろうと途方に暮れる瞬間もあった。カリスタに相談してみても、「知らないよ」「さっさとキスの一つでもすればいい」と言うばかりで、カリスタほど思い切りのよくない己を恨んだ。
行き止まりだと思っていたのがいきなり開けたのはカル・アステロックでの二年目が始まって少し経った頃だ。彼は新入生を朝練に呼んで、基礎を見ていた。俺はそこに顔を出して、ちょっかいをかけたり勝手に遊んだりしていた。新入生たちと彼の分身でミニゲームをしていてピッチが埋まり、退屈になる。観客席に座っていると、隣に彼の分身がいた。彼そのものではないと思った。だって彼はピッチに立って新入生を指導しているはずだから。
みんなミニゲームに必死で、誰もこちらを見ていない。俺はひっそりと、手を重ねた。デートでゴロタマ観戦に来ているみたいだ、と思って。その手が握り返されて、飛び上がりそうになる。彼の幻はあくまで光の像にすぎない。握り返してくるはずがない。「幻だと思ったか?」彼が意地悪く笑う。彼の方から俺をからかってきたのはこれが初めてだった。それが死にそうなくらい嬉しかった。心臓がうるさすぎて言葉が出てこない。彼も黙っている。意地悪な笑みから、やわらかい笑みになる。ミニゲームが終わって新入生がこっちを向くまで、二人で指を絡めたままでいた。
本当に彼のことが好きで、彼もおそらく俺のことが好きで、いつしか俺は例の焦げ付きからは目を逸らすようになった。楽しいことと嬉しいことしかない。それでいいはずだ。なのに、そう思えば思うほど、好きで好きでしょうがない彼の向上心や真面目さが、傲慢さが、不愉快でしょうがなくなっていった。彼は俺じゃないし、カリスタでもない。俺の人生に現れた、最も重要な他人。オドワード・ストーンガーデン。その手を必死に握って、繋ごうとして、でもいつか離れていくかもしれない人。それでも、四年目まではもったのだから、よほど俺は彼のことが好きなのだろう。