#magnetmirrorweek26 参加作品 - 3/7

0729 MedievalAU(中世AU)『首』

それはまだタマがスポーツではなく、戦争に使われていた頃の話。タマの起源は戦場で敵の首を蹴ったことであるとする説もあるが、定かではない。とにかく敵の首を落とすための剣を作る鍛冶屋が社会には多くいた。とある街にも、一人の鍛冶屋見習いの少年がいた。その性向不真面目にして軽薄、鍛冶屋の息子に生まれ、磁力のタマを持っているのでなければ炉の前に立ち続けることなどできなかっただろう。「真っ当な職のある家に生まれて本当によかったな、でなければお前は今頃路上に座っているはずだ」と周囲の大人たちは言うが、彼自身はそうは思っていなかった。自分には、人生には、もっと何かがあるはずだと思いながら、へらへらと冗談を言い、己が鉄と共に叩かれ削られていくのを感じていた。
「おかえり。……あんた、また出ていくの」
「いいだろ、別に」
彼には双子の姉がいた。早くに母を亡くしたこの家で、姉は家事を一手に背負わされている。彼らが生きていたのは、そんな社会だ。自分にもっと何かがあるのなら、同じタマを持つ姉にだってもっと何かがあるはずだと思うと顔を合わせるのが気まずくて、彼は仕事を終えると家の外で夕食を取ることが多かった。その日も、安くて気に入りの酒場に入り込む。酸っぱい水のような酒をあおり、くず肉とパンで腹を満たした。そのうち知り合いも顔を出す。彼らと中身のない話をしながら、武器を買いに来る傭兵や見習い騎士を今度はどんな風にからかうか考えることだけが、数少ない楽しみだった。喧騒がつかの間止むと、リュートの音色が聴こえてくる。流しの吟遊詩人が隅の椅子で歌っているのだろう。その隣で、光がちらついた。顔だけは知っているが話したことはない隣町の高慢ちきが、踊り娘のように踊っていた。彼のタマによるものだろう、光でできた幻影が、揃って舞う。それはとても美しいのに、くすくす、げらげらと嘲笑のような声しか浴びせられていなかった。それでも飛んでくるチップを、彼は残さず拾っていた。
「なんであんなことしてんの」夜が更けたころ、彼は高慢ちきを追いかけて、その手を掴んで引き止めた。
「この街を出ていくためだ」
「なんで? 吟遊詩人にでもなるのか?」
「傭兵になるんだ。俺のタマならそれなりにやれるだろ。もしかしたら、騎士にだってなれるかもしれない」
吟遊詩人。傭兵。騎士。考えたこともない選択肢に、彼はめまいがした。足元がぐらぐらと崩れていくようだった。
「いつ出発する?」彼はすがるように相手の肩を掴んだ。
「俺も一緒に行く」
意外にも高慢ちきは嫌な顔はしなかった。すんなりと頷いて、来週同じ日の朝早く、と答えた。彼は星を見上げた。それは炉の炎よりも強く輝いて見えた。
「吟遊詩人と、傭兵と、騎士と、全部なってやるんだ」
「悪くないな」
その翌週、街を出ていった二人の行方を知るものはいない。吟遊詩人になり、傭兵になり、騎士になった二人の首が落ちて、一緒に転がっていった先を、知っているものはいない。