0728 GoyenAU『火が照らす横顔』
カル・アステロックで最も若い二十代前半のゴイエンが、その時のナイツのメンバーを特訓にと連れ出したのはメストラスにある鍛冶屋だった。
「ゴイエン・ストーンガーデン、鎧はシーズン初めに整備してもらったばかりじゃないですか。あ! もしかして鎧をアップグレードしてくれるんですか!?」
「今のお前たちに足りないのは鎧じゃない。アウェーで戦う時の適応力だ」
「ええっ?」
入学したての新入生が怪訝な声を上げる。奥から鍛冶屋の若者が、遮光面をつけた顔を出した。「あー、やっと来た」今回のゲストコーチに挨拶をしろと言われて、ますます選手たちは戸惑いを顕にする。このゴイエンは、一体何を言っているのだろう。他の歴々のゴイエンたちに比べて経験も浅いし、突飛な思いつきで自分たちを連れ出したのではないか?
「今納品が立て込んでてさあ。片手間でもいいよな?」
「ああ、今のこいつらにはそれくらいが丁度いい」
「はあ!?」エースストライカーが遺憾の声を上げる。奥のごちゃごちゃとした鍛冶場に通されながら、選手たちは口々に不満の声を上げた。確かに自分たちの成績は振るわない。だからといって、こんなゴロタマ選手でもない鍛冶屋にコーチをつけてもらういわれはないはずだ。
しかし十分後。いくつもの鉄に襲われて、選手たちは避けるのがやっとだった。一つ簡易に設えられたゴールに蹴り込めれば生徒たちの勝ち。特訓はおしまい。だというのに、ボールに触れる暇もない。
「ゴイエン! 何なんですかこれ! 死にますって!」
「俺がちゃんと見てる。自分の頭で考えてやってみろ。お前らに必要なのは、相手に有利な環境で悪意を読む力だ」
生徒たちの悲鳴が響く。鍛冶屋は宣言通り忙しく鎚を振るっている。磁力のタマでいくつもの金属塊を操りながら。「忙しいとこ悪いな」「いや、カリスタがメストラス出てってから久しぶりにゴロタマやれて楽しいよ」「そういえばカリスタって今どの辺にいるんだ?」「ああ、丁度昨日手紙が来て——」関係ない話をはじめた二人に、ストライカーがぎりりと歯噛みする。「ああっ、ちくしょう!」遮二無二飛び出し、ボールを蹴った。それを他のメンバーが、タマを使ってゴールに後押ししていく。
「おっ、悪くないじゃん」しかしそれは飛んできた金属板に弾かれてしまった。
「一旦休憩しながら今のとこどうすればよかったか考えよっか」
遮光面を上げて出てきた火傷のある顔に、生徒たちが驚愕の声を上げる。
「きゃ、キャスパー・フェレイロ!?」
磁力のタマでもしかして、と考えていたややミーハーなミッドフィルダーが声を上げながら飛び上がった。
「ゴイエン、キャスパー・フェレイロと知り合いだったんですか!?」
「そっか、バーズでプレイしてたこともありますもんね〜!」
手のひらをかえしたようにきゃあきゃあとはしゃぐ生徒たちに、大人たちは苦笑する。鍛冶場から追い出して休憩に行かせた後、ゴイエンは鍛冶屋に尋ねた。
「後悔してるか?」
「何が?」
「ゴイエンにならなかったことを」
「全然。俺、子供って嫌いだな。お節介焼きの君には、向いてるんじゃない」
だからって俺も鍛冶が好きなわけじゃないけどさあ、と言うキャスパーが、カリスタのようにメストラスを飛び出さず留まっている理由を、それが自惚れや勘違いではないことをオドワードは知っている。いつまでもこの状態が続くのかどうかはわからない。キャスパーの気まぐれな横顔を、その頬の火傷をオドワードはじっと見つめた。キャスパーも珍しく黙って見つめ返す。
「あーっ、ゴイエンがキャスパー・フェレイロとキスしてる!」
何か落とし物でもしたのか、戻ってきた一年生が幼い声を上げたので、二人は飛び上がった。
「してない」「まだね」「こら!」
どちらを叱ればいいのかわからなくなって、オドワードは厳しい顔を作れなくなってしまった。
