0824 Day 1: Family | Little Big Adventure 『ちいさな秘密』
※大人になったトレイさんとリドルさんが子供を育てています。
踏み台を使って文房具箱から引っ張り出したルーペを草陰にかざす。葉の裏に、泡のように小さな卵がいっぱいついていた。それをどうしても見て欲しくて、私は電話中のお父様のズボンの裾を引っ張った。お父様は私がルーペを持っているのに気がつくと、血相を変えて受話器を放り出し、それを取り上げてしまった。
「ボクやトレイの見ていないところでこれを使ってはいけないよ! 火事にでもなったらどうするんだ!」
「えっ、火をつけられるの?」
「真面目に話をお聞き!」
がみがみと叱られて、結局卵は見てもらえなかった。おやすみの前にその話をすると、パパは笑って、「お父様にはお父様の考えがあるんだよ。自分じゃない人になったつもりで見てごらん」と言った。
「だから見たいのに……」
「ただ見るだけじゃないんだ。心の中で想像するっていうことなんだ。お前が知っててお父様が知らないこともあるし、逆にお前が知らなくてもお父様はわかってることもある。危ないことを、たくさん」
納得できないでいる私にパパは観念したように苦笑いすると、「今度ルーペで火をつけるところを見せてやるよ」と約束してくれた。
その後パパは、ねずみや虫がきのみや人間の落とし物をやり取りするようなやさしい絵本を読み終えると、眠たいけれどまだ眠りたくない私の額を撫でてこう言った。
「……実はな、パパは昔ねずみと冒険したことがあるんだ」
「冒険なんかするの、ねずみが」
「それでな、悪の帝王と戦ったんだぞ」
「嘘だよ、そんなの……」
パパは普通の優しいパパで、そんな冒険をするようにはとても見えない。眠たいのに、なんでそんなに面白そうな話を始めるんだろう。その日私は、肩にねずみを乗せたパパが、何かモヤモヤとした黒い大きな魔獣を倒す夢を見た。お外で遊んだら必ず手を洗おうなと言うパパが、果たしてねずみと冒険するだろうか? 動物とお話できる魔法があることは知っているけれど、人間とねずみが同じ目的で冒険できるだろうか? どうして、となぜ、が渦巻くうちに、いつの間にかパパではなく私自身がねずみと冒険する夢に変わっていた。
「ねえ、パパ。ねずみとどんな風に冒険したの?」
朝ごはんの席でねずみとの冒険について尋ねると、パパは丁度サンドイッチにジャムを塗りつけるのに使っていたスプーンを持ち上げて、「学生の頃、事故でこれくらいの大きさになってしまったことがあったんだ」と言った。それを聞いてお父様は小さく眉根を寄せる。
もしかしたら、ねずみとの冒険の話はパパが私にだけ話してくれた秘密だったのかもしれない。私はサラダにフォークを突き立てるのに苦戦しているふりをして、それ以上聞かなかった。また明日の夜に、お話してもらおう。
***
朝食の食器を片付けるトレイを睨みながら、リドルは囁いた。
「トレイ、子供相手だからと言っていい加減なことを吹き込まれては困るね。そんなことがあれば、ボクが知らないわけがないじゃないか」
「はは、でも夢があっていいだろ?」
トレイはジャムをすくった後のスプーンに視線を落として、尋ねてみる。
「……もし本当だったら、どうする?」
「怒るよ。そんな大変な状態で、なぜ頼ってくれなかったんだい。きっと危ない目にもあっただろう」
「そうか。いや、本当に、空想でよかったよ」
なんだかどうにも引っかかる気がしたが、子供がプリスクールの鞄を引きずって「準備できたよ!」と言うのを見て、それ以上の追求はやめた。鞄を肩にかけてやりながら、小さいということがいかに危険に晒されることかと思いを馳せる。これよりも遥かに小さくなってしまうなんて。そんなことは、あってはならないのだ。
