0730 Date『一つの部屋、二人きり、キスはたくさん』
同室のやつが今日は一日いないんだ、とオドワードは切り出した。
「それって、俺に部屋に来てほしいってこと? どうしようかな」
「嫌なら来なくていい」
「うそうそ、行くって!」
オドワードが寝起きする部屋は、キャスパーの部屋と違ってしっかりと整頓されていた。これがキャスパーの部屋だったら、椅子に大雑把にかけた服がベッドに並んで座るわかりやすい口実になっただろう。「普段どっちで寝てるの?」「上だ」キャスパーはわざと大袈裟にはしゃぎながら、上の段の毛布に飛び込む。するとオドワードも呆れたような態度をしながら、ベッドに乗り上げてくる。キャスパーが思わず枕に顔を埋めたのは、期待して喜んでしまった顔を見られたくなかったからだ。なんでもないふりをして、勢いよく身を起こした。そのまま並んで座って、他愛のない話をした。ふと数秒、会話が途切れる。手と手が重なっていた。キャスパーがオドワードに顔を寄せると、ベッドが微かに軋む。その音も、廊下の話し声も、やけに大きく響いて聴こえる。
「だめだ」「なんで」
初めての口づけは、手のひらに阻まれた。キャスパーは不服そうに拗ねた顔をする。
「ここは寮で、そういうことができる場所じゃないだろ」
「じゃあなんで部屋に呼んだわけ?」
「好きなやつとただ二人っきりで過ごしたいっていうのが、そんなにおかしいか?」
「じゃあ折角二人っきりなんだから、したいじゃん、色々」
キャスパーはいつになく真剣な上目遣いでオドワードを見つめた。珍しくオドワードの眉が下がっている。オドワードだって触れ合いたくないわけではないのだろうとわかった。何が彼を押しとどめているのだろう。
「……ねえ、誰も気付かないって。二人きりなんだから」
視線を捉えて離さないまま、その手を絡めとる。今度は阻まれないように。オドワードの方からも握り返してくれたのが、合図だと思った。そっと唇を重ねる。二人とも触れているだけで精いっぱいだった。一度名残惜しく離れると、今度はオドワードの方から顔を寄せて口づける。触れ合う手が熱い。脳と心臓の位置がわからなくなるくらい、全身を血が巡っている。相手の方にも流れているのではと錯覚するほどだった。
そんなキスを何度も繰り返して、二人してベッドに倒れ込んだ時、やっと言葉が戻ってきた。まだ、縛り合うように指は絡み合っている。
「……だからしたくなかったんだ。歯止めが利かなくなる」
「……オドワードのえっち。むっつりじゃん」
へらへらと笑うと、オドワードも、「お前に言われたくない」と言いながら笑い返した。ただ二人横になって、時々キスをするだけで、その日は満ち足りていた。この先への期待と恐れだけで、今は十分だった。
