0801 Forging(鍛冶)『薬指にはまだ早い』
鍛冶屋になることを真剣に考えたことはなかった。子供の頃は、鍛冶場なんて無くなってしまえばいいのにとすら思っていた。熱いし、ごちゃついているし、父を縛り付けて離さない。それでも、あるいはだからこそずっと鍛冶場でボールを蹴って遊んでいた。そうすることで、鍛冶に背を向けていた。だから、端材をくすねたのも、切り出したのも、休日に実家に帰るたびに鑢をかけたのも、ほんの気まぐれ。ちょっとだけ鍛冶の方を振り向いてみただけ。
「道具がなくなると思ったら……もしかしてそういうことか?」「父さん!」
ある日とうとう父に見つかってしまった。歪な輪に曲げられた小さな鋼を、父はつまみ上げて炉の端に置いた。鋼は熱されて、少し柔らかさを取り戻す。
「ほら、もう一度やってみろ。この段階では形そのものよりも繋げることを優先するんだ」
ハンマーが思い通りに打てなくて、なかなか輪は繋がらない。やっと繋がった時、父は「やったじゃねえか」とキャスパーの肩を叩いた。炉の火の強いところに輪をかざすと、つなぎ目が溶けて完全につながる。
「真円にするのは結構難しいぞ。代わりにやってやろうか?」
「いいよ、自分でやりたい」
恐々とハンマーで叩いて、歪んだ楕円を丸く、丸くしていく。ようやく指輪と呼べそうなものができたとき、まず父に見せた。父は「初めてにしちゃ悪くねえ」と褒めてくれた。誰の指輪かは聞かなかった。顔を火照らせて舞い上がるようにカル・アステロックへと帰ると、真っすぐにオドワードの部屋へ向かう。
「オドワード、この前デートした時アクセ屋さんで指輪見てたよね」
「ああ、いいのはなかったけどな」
シンプルだけれど、センスのいいアクセサリーを色々持っているオドワード。そのお眼鏡にかなうものはあの店にはなかった。何気ない風を装って、袋から指輪を出す。
「ねえ、これとかよくない? 実家の近くの店で見つけたんだけど」
「ああ、確かにアリかもな」
いつものしなやかな動きでオドワードの左手を絡め取って、指輪を薬指に通——せなかった。
「え、嘘、なんで」
「サイズを間違えたんだな。小指でも少しきつい」
オドワードの指と指輪とを交互に見比べて、キャスパーはパニックになりつつある。
「ちゃんと君のサイズで作ったのに! どこでミスったんだ……?」
どこかで削りすぎてしまったのか、それとも採寸から間違っていたのか。オドワードの手の中の小さすぎる輪をどうしてくれようか。狼狽するキャスパーにオドワードは問いかける。
「……もしかして、お前が作ったのか? どうして買ったなんて嘘、ついた?」
「……だって、初めて作ったやつだし。気に入ってもらえるかわからないし。この次はもっとカッコイイのを作るつもりだし……」
その時初めてキャスパーは、自分の鍛冶に「この次」があるのに気がついた。いつかオドワードの身を飾るものを作れるなら、もう少し鍛冶と向き合うのも悪くない。
オドワードは少し考えると、ネックレスに指輪を通した。
「……返して」「嫌だね」「かーえーせって!」「いーやーだ」
キャスパーは失敗作をプレゼントにしたくない。オドワードはキャスパーが懸命に作ったものを手放したくない。二人はしばらくじゃれ合うように指輪を取り合っていた。
