0731 Infirmary visit(保健室を訪ねる) 『おまえのためにできること』
「……入れば」
てっきりこっ酷く追い払われるかと思ったのに、意外にもカリスタはそうしなかった。それどころか、席を外してくれさえした。入れ違いに保健室へと入っていくと、キャスパーは目を開けて、ぼんやりと入り口の方を見つめていた。そのことに、まず安堵する。
「近寄んな」低い声に立ち止まる。来るべきではなかったのか、と己を責めかけた時、キャスパーはいつものように軽薄に笑った。ただ、顔に巻かれた包帯と、瞳の暗さだけがいつもと違っていた。
「いや、塗ってる薬がさ、マジで臭いから。ホント最悪」
「……その分効くんだろ」ベッドサイドの椅子に腰かけると、キャスパーは怯えたような目でオドワードを見上げた。ただ、いつもの保健室の、消毒液の匂いがするだけだ。冗談めかして、痛々しい姿を見られるのに抵抗したのだろう。
「だといいけどね。もうあんまり痛くはないし。……でも、多分痕になるって」
「……そうか」
言葉がでない。オドワードはそれでも、キャスパーから視線を逸らすまいとした。直接人を殺傷するようなタマの存在について、深く考えてこなかった。試合に勝てさえすればいいと、どこかで思っていた。もっとあのドラゴンの制御について、真剣に考えておくべきだった。チームの年長者として、もっと何かできたのではないか。エースだのスターだの言っても、その責任を果たせなかったのではないか。そんなことばかり考えてしまう。もしも彼が命を失っていたら——思考に隙間ができるともっと最悪なことばかり考えてしまうから、隙間を埋めるように己を責めた。
長い沈黙に耐えかねてキャスパーは、「何?」と刺々しい声を上げる。
「君にこんなに心配されるのって、すっごく変な気分。もっといつもみたいに性格悪いこと言ってくれなきゃ」
キャスパーのために、戦力を失ったバーズのために何ができるか考えていた。保健室を訪れたのは、それを伝えるためのはずだった。言葉に詰まったのは、生きている姿を見たら安心して全てが止まってしまったからか。
「……またバーズに戻ろうと思う。抜けた穴を埋めるために」
「はァ!? それって性格悪いにしても最悪! そんなこと誰も望んでないって」
思わず飛び起きようとして、傷が引き攣れたキャスパーをオドワードは押さえつけるようにもう一度寝かせた。キャスパーは呻くように囁く。顔が近くて、ずっと小さな声でよかった。
「……ナイツにいてよ。俺が回復してぶっ倒しに行くまで待ってて」
ゆっくりと手を伸ばすと、オドワードの涙を拭った。
「……勝てると思ってるのか?」無理していつもの自信満々で皮肉げな笑みを作ろうとしたオドワードに、キャスパーは珍しく素直になって言う。
「見当違いな償いより、そういう君らしい君の方が嬉しい。あと、キスしてくれたらもっと嬉しい」
そう言うと、すぐにあの時のようなキスをしてくれたので、今度はキャスパーも泣いてしまった。
